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インフレさえ起こせば世の中は良くなるという幻想

2013/09/01;




インフレさえ起こせば世の中は良くなるという幻想










古今東西、お金を大量に印刷すればどんな国家でも景気は良くなったのです。ただしその後、止まらないインフレがきたのです。大インフレになる前は景気が極めて良くなるのです。政府が打出の小槌のように国債を発行してそれを日銀に引き受けてもらえば日本国民には無尽蔵のお金があるように感じるのです。




 「土地と株の値段を半分にする!」
 時は1989年12月、日本はバブル景気に湧き上がっていました。 ところが多くの日本人はその恩恵にあずかっていなかったのです。ジャパンアズナンバー1と世界にはやされていたものの、庶民は家さえ持つことができませんでした。マンション価格が異常な高騰をして、年収の10倍以上となり、高嶺の花となっていました。当時の日本は株式の時価総額では世界の40%を占め(現在は8%)、東京全土の地価の総額はアメリカ本土を二つ買えるほどの額になっていました。 世界の主要銀行上位10社のうち8社は日本の銀行(現在はゼロ)、今は消え去った第一勧業銀行や住友銀行など懐かしい名前は世界のトップに君臨していました。NTTの上場では119万円の公募価格に対して上昇後、あっという間に300万円まで高騰、世間は株ブームに沸き、当初出てきた日産の高級車シーマは飛ぶように売れました。NTTの時価総額はドイツの株式市場の規模を上回り、世界に君臨するGE、IBM、エクソン、AT&T、GMの時価総額全てを合わせてもNTTの時価には追い付けませんでした(現在、世界の株の時価総額の第2位はエクソン、第9位がGE、第10位がIBM、第17位がAT&T。日本企業では、トヨタが第23位で、NTTは100位にも入りません)。

「バブル期に日本人が感じた矛盾」
 バブル時代を振り返る時、日本の驚くような快進撃だけが伝えられ、ジュリアナ東京で踊る日本人の浮かれた姿ばかりが、当時の世相として報道されています。しかし、日本全体を覆っていたムードや、庶民の暮らしぶりはそのようなバブル景気の報道とは全く違っていたのです。
 日本企業や日本株や不動産価格の高騰が世界を席巻していたのは事実です。ジャパンアズナンバー1、その通りで金融的には日本は世界を制覇していました。しかし欧米からは「エコノミックアニマル」「金持ちだがウサギ小屋に住む日本人」と揶揄され、庶民の暮らしぶりは決して楽ではありませんでした。何しろ家が持てなかったのです。土地が高くなり過ぎ、マンション価格が高すぎて普通の人はとても買うことができなかったのです。
 一生懸命働いても、まさにウサギ小屋と言われる狭いマンションを買うことすらできないのです。「世界一の金持ちとは何なのか!」ないしは「何が世界一の金持ちだ!」、多くの人達は疑問を持っていました。実際、欧米諸国ではきっちりとした8時間労働(日本では長時間の残業は当たり前)で、皆、広い家に住み、生活を楽しんでいるようでした。世界一の金持ちであるのに、住む家さえ買えない、仕事に追われ人生を楽しんでいない、「いったい日本人の生き方はこれでいいのか?」、当時は株ブーム、不動産ブーム、ゴルフの会員権ブームです。株を持つ人はシーマを買うことができ、ゴルフの会員権を発売前に購入しておけば簡単にお金が儲かる、と言われていました。当時、多くの人達はこのバブル景気は何かがおかしいと思っていたのです。そしてその声が日本全体を覆い尽くすようになっていきました。
 「今の世の中はおかしい」「バブルは行き過ぎている」「庶民に家を、まじめに働いた人が報われる社会を作ろう」という大合唱が始まってきました。そして「問題は行き過ぎた株や土地の値段であって、庶民が家を持つためには株や土地の値段を下げる必要がある、そうすれば多くの日本人が家を買えるようになる、幸せな暮らしができるようになる」という雰囲気が充満してきたのです。 このような世相をバックに、NHKは連日「土地の値段を半分に下げる」という討論番組を主催して、多くの人達がこのバブル景気で異常に高騰した土地価格をどのように引き下げたらいいか、日本人の大多数が手ごろな価格で家を持てるように真剣に討論したのです。
 そして世間は行き過ぎたバブル景気を抑えて、「土地や株の値段を下げることは日本人全体にとっていいことである」というように思うようになりました。経済発展したのに、多くの日本人がマイホームを持てないのはおかしい、日本経済の仕組みを変えていく必要がある、という世論であり、考えだったのです。
 こうして日本全体は政治も中央銀行も大きく舵をとっていきました。まさに行き過ぎた土地や株の値段を抑える必要がある、という日本全体のコンセンサスが作られていったのです。新聞、テレビ、政治全てがその必要性を説き、実行していこうとしたのです。 

「時のリーダー、三重野日銀総裁が行ったこと」
 そこにさっそうと登場したのが新しい日銀の三重野総裁でした。
 世間は、土地や株を下げるという三重野総裁を時代を動かすリーダーとして持ち上げたのです。「平成の鬼平」と言われた三重野総裁は、当時の政策金利を2.5%から6%までわずか15ヵ月で引き上げるという荒療治を行いました。今考えるととんでもない政策をとって日本経済を奈落の底に落とし、株の暴落のアクセルを踏み続けたわけです。
 一方、全知全能と言われた大蔵省は日銀の政策と追随して、1990年4月から土地融資に対しての総量規制を実施、実質的に銀行が土地に融資しないように行政指導を始めました。こうして1989年12月に天井を打った日本の株価と土地の価格は急落をはじめ、それに輪をかけるように日銀や大蔵省が次の手を打ってきたのです。
 まさに民衆の「土地と株の値段を半分に下げろ!」の声を受け、日本全体がバブル潰しに動きました。こうして都内の土地などは2年で10分の1に下がった物件もあったのですが、1992年今度はトドメをさすように地価高騰を抑えるという名目で地価税を導入するに至ったのです。
 今、考えると不思議です。何故あれほど日本人のほとんどが「土地や株を下げれば幸せになれる」と思ったのか? 何故、新聞もテレビも政治家も「土地や株の値段を下げよう!」を必死になったのか?
 当時は日本全体がバブル潰しの熱狂に包まれていました。結果的に、急激な株価と不動産価格の暴落で日本の経済は一気に窒息状態になり、機能停止、あっという間に日本全体に債務が雪だるまのように膨れ上がりました。こうして日本経済はバブルが崩壊、世界のトップから転落して失われた20年と言われるようになりました。

 三重野総裁が就任して、バブル潰しを宣言した、ちょうどその時、1989年12月、ロスチャイルドは当時保有していた全ての日本株を売却、一転空売りに入り、日本株の大量売りに動き始めます。同じく1980年代後半から日本に進出してきた外資系証券会社は先物取引を使って一斉に日本株の売りに邁進し始めました。日経平均は1989年12月の38,915円を境に、まさに三重野総裁の就任と共に暴落を開始、2年後は半値以下の14,000円台にまで下がっていったのです。世界の歴史に残る株の大暴落でした。
 今考えると、誰があんな世論を作ったのでしょうか?
 「土地と株の価格が半分になれば、日本人は幸せになれる。」多くの日本人は幻想に酔いました。狭い国土に住む日本人の潜在意識に潜むマイホームの夢を巧みについたフレーズです。それは異常なバブル景気に対しての反感でもあったのですが、マスコミに煽られた世論形成の作りだしたものでもあったのです。こうして日本人は巧みに操られ、国を間違った方向に持っていき、経済を潰し、現在の止まらないデフレ不況を招きました。その間、金融的な富は外資系金融を通じて外国資本に吸い上げられたのです。


そして今は逆の意味で当時と同じことが全く正反対の形で実現されようとしています。 1989年と全く逆ですから、今度は「土地と株の値段を半分にしろ」から「お金を印刷してデフレを止めろ、インフレを起こせ!」です。実にうまい世論誘導なのですが、共に庶民の心を打つフレーズです。 1989年当時は「土地と株の値段を半分にすれば、庶民は家を持つことができます」、これは庶民にとって嬉しいことです。誰もが望む話でした。 今度の世論操作は当時とは逆のフレーズです。「デフレ脱却! 物の値段を上げろ、インフレを起こせ、インフレを無理にでも起こせば経済は良くなる」と言うのです。 インフレは本来、経済が良くなって結果としてインフレが後からついてくるはずです。ところが変な経済理論が出てきました。お金をたくさん印刷してインフレ期待を起こせ、というのです。人々がインフレになると思えば物を買うようになるから経済が良くなると言うのです。 極めて常識的に考えれば、お金を印刷しただけで経済が良くなるはずはない、お金を常軌を逸して印刷し過ぎれば、お金の価値がなくなるだけだ、と思うのが普通ではないでしょうか。そう考えれば、インフレになるのであって株でも買っていた方がいい、というわけで、私は株を買っているのですが、今、日本中の期待は違うようで、お金を刷れば景気が良くなると信じているようです。
 
「やがて大インフレがやってくる」
 面白いのですが安倍首相自身が、最初はこのリフレ派の考え、「お金を印刷してインフレ期待を起こすことによって経済を良くする」という考えには懐疑的だったというのです。 「胡散臭いと思っていた」と回想しています。ところが「誘われて勉強会に出ているうちに考えが変わってきた」と述べています。直観ではおかしいと思ったのに、勉強会に出るようになって考えが変わり、その経済理論の正しさを確信するようになったというのです。不思議なのですが、「お金を印刷するだけで経済が良くなる」というリフレ派の考えは数年前までは一般的ではありませんでした。ところが何故か日本のテレビではもてはやされるようになりました。テレビは影響力が強く、識者がテレビに出て「お金をもっと印刷すればいい、日銀の政策が変われば日本経済は復活できる」と言われているうちに庶民は期待するようになっていくのです。こうしてリフレ派の考えが大きくマスコミに取り上げられるようになっていったのです。今では新聞、テレビ、インターネット、そして政治、最後は中央銀行までもリフレ派が支配するようになりました。
 日本全体がリフレ派で固まってきて、日本国の方向も、お金をさらに印刷するというふうになってきたのです。これも庶民ウケします。何しろ今まで経済が悪かったのはお金の刷り方が足りなかったのであって、お金さえ刷れば日本経済は復活できるというからです。

 「消費税も上げる必要がない。経済政策さえ変えれば、日本経済は復活できるのだ」という話です。悪かったのは政策を間違った日銀であり、日銀が政策転換して「デフレから脱却すれば日本経済は良くなる、もっと大胆に金融を緩和すればいい」というのです。 1989年はロスチャイルドが日本株を大量に売却して空売りを始めて大儲けしました。 今回は同じくロスチャイルド系の投資家、ジョージ・ソロスは円売りと日本株買いで1,000億円以上の利益を出したことがすでに報道されています。
 日本人全体が狂ったように動き、政策の大転換が起きると不思議と外国資本は大規模な投資を行ってきます。彼らは今、日本株を買うと同時に日本円を売ってきています。私は彼らの投資手法は正しいと思っていますので、同じく日本株の買いと円売りを勧めています。お金さえ刷れば経済が良くなるのではなくて、お金を異常に印刷すればお金の価値がなくなると思っています。やがて止まらないインフレが来て経済が破壊されると思っていますので、来るべき大インフレに対応する必要があると思っているからです。 大手企業の賃上げが報道され、日本の景気指標は良くなってきました。世の中は急速に景気回復期待に満ち溢れ、日本経済の復活を思わせるトピックが増えています。安倍政権の支持率は上昇して日本全体のムードも大きく変わりました。景気は気ですからこれから、日本はハッピーアワーを迎えることでしょう。
 しかし景気が良くなってきた元が、お金を印刷したことであるという事を忘れてはいけません。政府や中央銀行が止めどもなくお金を印刷すれば、景気は良くなるのです。それはそうでしょう。国民の皆様一人一人に100万円ずつ配って、その資金を日銀が印刷してくれたらどうですか? こうして確実にみんなが消費できるようになって景気は良くなります。一時的にはね! 
 古今東西、お金を大量に印刷すればどんな国家でも景気は良くなったのです。ただしその後、止まらないインフレがきたのです。大インフレになる前は景気が極めて良くなるのです。政府が打出の小槌のように国債を発行してそれを日銀に引き受けてもらえば日本国民には無尽蔵のお金があるのです。
 1989年、当時は株や不動産の上昇は戦後45年も続き、株や土地が下がることなど思いもよりませんでした。ましてや株や土地が暴落することの深刻さを感じることもなかったのです。日本の最高の頭脳である日銀トップも大蔵省も世論と一緒に誤った方向に進んでいきました。そして今また同じことを繰り返そうとしています。インフレさえ起こせば世の中は良くなるという幻想です。20年以上もデフレに慣れきった日本人はインフレなど思いもよらないし、想像もつきません。そして世間も世論も政治も中央銀行もあらゆるところが「インフレに持っていけ」の大合唱です。巧みに世論操縦された結果なのか、それとも時代の勢いなのか、私にはやがて来る大インフレで日本中が悲鳴を上げる姿しか想像がつきません。