兜牛レポート
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静かなSQ前日
*2016/03/11
賭け事はヘッジファンドの独壇場
歴史的なユーロ変動招いたドラギの誤算
(
豊島逸夫記事抜粋)
ドラギ・バズーカさく裂、と誰もが思った。予想をはるかに上回る追加緩和に対する初期反応は1.08ドル台までのユーロ急落だった。「岩が転げ落ちるようなユーロ下落」と表現された。
しかし、記者会見の最後に思わぬサプライズが待っていた。「これ以上利下げの意志はない」ドラギ総裁にしてみれば、これだけの大盤振る舞い。当面できることは全てやった、と言いたかったのかもしれない。だが、ヘッジファンドのアルゴリズム売買プログラムは「追加利下げ無し」のヘッドライン(見出し)に強く反応して、ユーロ買い・ドイツ株売り注文を集中的に発動した。ユーロはみるみる1.12ドル台まで急騰した。
短時間で、これほどのユーロ乱高下はユーロを長く見守ってきたベテラン・スイス人トレーダーも「歴史的」と語るほど。「ドラギ氏は市場とのコミュニケーションに失敗した」との声も聞かれる。昨年12月の追加緩和が「緩和不足」とされ市場に失望を生み、ユーロ高を招いた記憶もいまだ生々しく残る。今回は、緩和不足どころか、そこまでやるかと思わせるほどの緩和強化にもかかわらずユーロが急反騰した。
「中央銀行への信頼低下の表れだ。金融政策の限界を露呈した」いや「民間の中央銀行緩和策依存の症状」だと、解釈も割れる。
今回の追加緩和パッケージのメニューを見ると、マイナス金利0.4%は想定内。
量的緩和月額600億ユーロから800億ユーロへ増加はサプライズ。高格付け社債を購入対象に入れたこともサプライズ。長期資金供給オペレーション(TLTRO)の金利がマイナスもサプライズ。これは、民間銀行がECBから資金を借りて、しかもマイナス金利分だけもらえるという
こと。日銀が民間銀行の当座預金に0.1%のペナルティー金利を課すことと対比が鮮明だ。
これだけの好条件を提示されれば、民間の銀行も、乗ってくるだろう。しかし、市場は懐疑的だ。果たして、それで民間資金需要が喚起されるのか。
ユーロ圏インフレ率がマイナス0.2%まで下落するほど、欧州経済の「低体温症」は慢性化している。実体経済を潤すことなく、マネーだけが徘徊(はいかい)して、筆者の働いたチューリヒでは
不動産市場が過熱気味
だ。
結果的に、
日銀も欧州中央銀行も、本音の「自国通貨安狙い」は成功しなかった。両者とも、意図せざる通貨高に見舞われている
。
そして、
来週には、日銀政策決定会合が開催
される。
ECBの強力な追加緩和が、ユーロ高・ドル安を誘発したことで、
日銀も、ますますやりにくくなった
。マイナス金利幅拡大と量的緩和の増量の組み合わせでは、更なる円高を自ら誘発するリスクを見せつけられたからだ。
こうなると、最後の頼みは、米連邦準備理事会(FRB)。マクロ経済データ次第なれど、米利上げの回数が増えれば、ドル高となり、円安・ユーロ安が他人任せで達成できる。
とはいえ、もし、米利上げ回数の見込みが減れば、ドル安・ユーロ高・円高のリスクが顕在化する。その米利上げ回数に直接的影響を与える米マクロ経済データは、まだら模様だ。
このような市場環境下で日銀は「動かず」の選択を取るかもしれない。極めて不安定な市場で、金融政策を動かすことは、想定外の規模で波乱を生むリスクがあるからだ。
なお、ヘッジファンドなどのホットマネーが戦場を円からユーロに移したことで、外為市場では円の流動性がユーロに比べ薄くなっている。ボラティリティーはますます高まるは必至。とばっちりの円高進行が日本株のアタマを重くする状況が当面続きそうだ。
日米金融当局待ちの相場である。そのなかでヘッジファンドは水を得た魚のごとく売買を活発化させている。
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