- 2014/11/13
- 今世界経済情勢を最も的確に分析できているのはジム・ロジャース
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――日銀が追加的な金融緩和を発表するなど、アベノミクスを巡る新たな動きが目立ちます。どのように評価していますか。
「安倍首相の施策は日本を破壊している。日銀による追加的な金融緩和はさらに円安を進めて市場を喜ばせ、安倍氏の再選を狙うものだろう。私のような投資家や、一部の輸出企業には良い。だが、若者をはじめとする大半の日本人には悲惨なことだと思う。日本は対外的には債権国だが、対内的な巨額の債務を賄いきれなくなっている。なのにもろもろのコストは上がり、生活水準が低下するからだ」
「歴史的にみても、自国通貨安で本質的に経済が救われた例はない。欧州や南米の様々な国が試みたが、一時的な刺激にはなれど長期的には成功しなかった。年金資産の運用見直しや少額投資非課税制度(NISA)導入など、投資家にとって良い政策もあった。だが、大きな流れを誤っており、あの時にお札を刷りすぎて問題を深刻にしたのだと10年後に振り返ることになるのではないか」
――消費税の引き上げ議論と絡め、早期に衆院解散・再選挙があるとの観測も浮上しています。
「本来は、税負担を引き下げて経済を活性化させる方が良い。だが、もし増税せざるを得ないなら、他の税より消費税の引き上げは悪影響が少なくマシだと思う。今の日本では消費を抑制する代わりに、貯蓄や、生産性の向上につながる設備・教育などへの投資を促進するような増税の仕方をすべきだ」
「衆院を解散すれば、株価は上昇する可能性が高い。集票のためのばらまき的な発言などを人々が取りあえず歓迎し、つかの間のバブルが訪れるかもしれない。日本株の水準は底値から既に2倍になったが、3倍に達することもあるだろう。だが長期的には、安倍氏の再選やそれによる政府・日銀の政策継続が、日本にとって最も危険なこととみている」
――日本への投資スタンスに変化はありますか。
「先日の日銀緩和拡大を受けて、私自身は日本株を買い増した。海外の移動が続いて多忙だったこともあり、個別銘柄ではなく指数連動での積み増しだ。日本株は2011年の東日本大震災以降、状況に応じて買い増す一方で売ってはいない。個別では引き続き主力優良株(ブルーチップ)が中心。割安のうえ、年金資金を含む日本の国内投資家が買うとしたらブルーチップだと考えるためだ」
――より本質的な日本経済の回復には、何が必要だと考えますか。
「債務の削減と、海外移民受け入れ・関税の引き下げや撤廃といった開放政策だ。人口減少に加えて債務を増やしては、自滅を加速するばかり。米国やシンガポールが自ら請い、移民を流入させるために様々な手段を講じて経済的に成功したように、外国人を嫌うべきでない。例えば、従事者の平均年齢66歳でダイナミックな変革を起こせない農業などを補助金で保護するのでなく、参入意欲がある人を受け入れるべきだろう」
――原油価格の低迷などが目立っています。商品市況の見通しはどうですか。
「商品の種類ごとにより異なる。金や銀はまた買う機会があるだろうが、今ではない。一方、原油価格はサウジアラビアによる販売価格引き下げをはじめ、地政学的な思惑や米国のシェールガスを押しとどめるためなど各種の“人工的な理由”で押し下げられた面が大きい。本来的な理由からの下落ではないので、いま原油を売りはしない」
「割安感があり買いたいのは、砂糖などの農産物だ。日本の農家は平均年齢66歳、米国やオーストラリアは58歳、カナダも極めて高齢。英国の農業分野では自殺率の高さが問題となっている。若い人が別の道を選ばざるを得ないように、産業自体が厳しい状態にある。つまり、このまま食糧不足に陥らないためには、農産物の価格上昇が必要になる」
――中国その他の新興諸国について、投資機会をどう見ていますか。
「最も魅力的なのは中国とロシアだ。米国株が上昇している間も、中国株はかなり低下して投資余地を増した。金融など規制緩和や開放を進めている業種、大気汚染対策や農村部の発展策といった政策的に伸ばそうとしている業種が有望だ。ロシアは投資家から最も敬遠され、膨大な資源があるのに割安に据え置かれているため、投資妙味がある。最近はフォスアグロというロシアの大手肥料メーカーの役員に加わった。農業かつロシアという二重の魅力があり、同社の株式も買っている」
「一方、今のところ投資を避けているのはインド株だ。中国政府が掲げた改革策を資金も投じながら順次実行に移しているのに対し、インドのモディ政権はまだ言葉ばかりで行動で証明するには至っていない。改革の実現性がまだ分からないうえ、株価の割安感も乏しい。同様に新たに就任したインドネシアのジョコ・ウィドド大統領も、発言内容は悪くないし実績もあるが、現在あまり注目している地域ではない」
「北朝鮮には潜在的な成長可能性がある。1980年代の中国や2010年ごろのミャンマーと似た状態だ。投資できるなら大いにするが、米国人としての制約があるためできない」