*業績悪化に歯止めのかからないシャープ<6753.T> は、自立再建の道が狭まりつつある。1兆円を超える負債を抱えて金融機関からの圧力が強まる一方、提携相手の鴻海精密工業<2317.TW>は出資比率の引き上げを虎視眈々と狙っている。銀行の管理下か、台湾メーカーの傘下か、このまま再生の道筋を示せなければ、シャープは窮地の選択を迫られる可能性がある。 <CB償還で救済シナリオ始動> 2012年4―6月期の決算発表が目前に迫った7月下旬、大阪本社のシャープの奥田隆司社長は東京に出張し、主要取引銀行を訪れた。面会の目的は「バックアップ」の要請。主要の液晶パネル事業の赤字が拡大し、テレビ事業の低迷は想定を超え、財務内容は一段と悪化しつつあった。 4─6月期に1384億円の最終赤字を計上したシャープの有利子負債は1兆2500億円を超えた。2013年9月に償還期限を迎える約2000億円の転換社債(CB)に加え、3600億円超に上るコマーシャル・ペーパー(CP)の返済もある。 これに対し6月末の現預金は約2200億円に過ぎず、液晶パネル在庫を中心とする棚卸資産は約5100億円を超える。6月末の純資産は4788億円で、3月末から25%減少した。 最終赤字が2500億円まで拡大する見通しの来年3月末には純資産がさらに減る見通しで、一般的には通常の金融取引に注意信号が点る水準。もはや銀行の支援は不可欠だ。 決算会見で奥田社長は「主要取引金融機関にバックアップ体制を検討してもらっている」と話したが、その詳細は言及していない。だが、ある金融機関の関係者は「CB償還を前にリファイナンスを検討している」と、シャープ救済シナリオが動き出したことを明かす。 <5000人削減に金融機関の圧力> 「バックアップ」という名の救済と引き換えに金融機関が奥田社長に突きつけたのは大規模な人員削減だった。8月2日の決算と同時に5000人という人員削減規模を盛り込むべきかどうか、シャープ社内ではぎりぎりまで決まらなかったという。シャープ幹部は「数字の詰めで苦しんだ」と述べ、銀行から強い圧力を示唆する。 シャープが人員削減に踏み切るのは1950年以来、62年ぶり。戦後の緊縮財政で当時主力のラジオが不振、創業者の早川徳次氏は、取引銀行から210人の人員削減を迫られた。苦悩した早川氏は人員整理より会社解散の道を選ぼうとしたところ「会社をたたむな」との声が起こって自主的に210人が退職したという。 以来、雇用を大切にする社風が育まれたシャープは、リーマンショックでも人員削減には手を付けなかった。奥田社長にとっては「断腸の思い」の決断だが、市場の評価は依然として厳しい。「人減らし」以外の事業再生の方向性が見えないためで、構造改革としては、液晶テレビ組み立て工場の栃木工場(栃木県矢板市)と太陽電池を生産する葛城工場(奈良県葛城市)の生産体制を縮小するという組織再編にとどまった。 | *テレビ工場は、国内だけでなく、ポーランド、メキシコ、マレーシア、中国の各地域に点在している。ドイツ証券の中根康夫アナリストは「テレビ工場は勝てない市場では閉鎖しなければならないし、鴻海に買ってもらう工場もあるはずだ」と指摘。実力に合わせて自社生産を見直すべきと、さらなる構造改革の必要性を訴える。 <価格見直しで鴻海の揺さぶり続く> さらに、頼みとする鴻海との提携が不安定なことは、シャープ再建の先行きを見えにくくしている。鴻海は今年3月27日、シャープ株9.9%を1株 550円で取得し、669億円を出資することで合意した。だがシャープの株価が下落し続けるのを横目に、いまだに払い込みを実行していない。 4―6月期決算発表翌日の8月3日、シャープ株が192円で取引を終え、1976年以来の水準に落ち込むと、鴻海側はシャープへの出資契約について「両社が見直すことで合意した」と突如発表した。シャープ株の取得価格変更が狙いだが、直後にシャープは「そうした事実はない」と全否定。パートナーであるはずの両社の関係が円満ではないことを露呈した。 鴻海にしてみれば、条件通りに出資すれば含み損が出る。しかしシャープにとっては、鴻海の引き受け価格を下げれば調達資金が減り、財務改善計画に狂いが生じる。ただし、669億円の出資額を維持して価格だけ見直されることになれば出資比率が跳ね上がり、鴻海の支配力が増すことにな る。 鴻海を率いる董事長の郭台銘(テリー・ゴウ)氏は6月18日の株主総会でも出資比率の引き上げに向けて両社が協議していると株主に話すなど、再三にわたりシャープに揺さぶりをかけてきた。このときもシャープは6月26日の株主総会で否定して対応に追われた。 <株価下落で追い込まれる> 鴻海は役員の派遣も依然として模索している。シャープ決算の翌日、鴻海関係者はロイターに対し「筆頭株主になるのでシャープの経営に影響力を行使するため様々な方法を考えている」と語る。シャープは6月26日の株主総会でも役員派遣の観測を否定しており「6月の定時株主総会で否定したのに、すぐに臨時株主総会を開いて鴻海の役員派遣の承認を求めることなどできるわけがない」(関係者)と改めて拒否する構えだ。 しかし業績の立て直しがままならず、株価が下げ止まらない状況はシャープの立場を一層不利なものにしている。ある銀行関係者は「鴻海との提携はシャープがその部品会社になるということだ。あとはプラズマクラスターなど環境製品を売っていく。それで銀行団も応援する」と語り、シャープの事業の選別を始めている。 「テレビの事業そのものをやめたり、なくなったりすることはない」と強調する奥田社長。だが「部品専業メーカー」としての生き残りを余儀なくされれば、弱った事業の撤退を含む大規模な再建シナリオも視野となる。あくまで、自らの判断で再建を目指すシャープの意向をよそに、徐々に外堀が埋まろうとしている。 |