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***∞レポート
▍① PCの次は「PAC」かもしれない
PCとは何でしょうか。「Personal Computer」、つまり個人が使うコンピュータのことです。けれども、AIが身近になった今、この定義そのものが少しずつ揺らいでいるように思います。
そこで考えてみたいのが、PCの次に来るかもしれない「PAC」、Personal AI Computerです。
といっても、AIを載せたPCという意味ではありません。AIをコンピュータの真ん中に置き、人間は目的を伝えるだけにして、実際にコンピュータを動かすのはAIに任せる、という発想です。
これまでは「人間がアプリを開き、データを扱う」のが当たり前でした。PACでは「人間がAIに頼み、AIがアプリやデータやネットワークを使う」ことになります。
たとえば、「昨日の資料を探して」「この数字をIRと照合して、違いがあれば教えて」「それを記事にまとめて」と頼むだけです。ファイルを探し、アプリを立ち上げ、コピーして見比べ、文章を書く。そうした一連の手作業を、まるごと預けてしまうわけです。
こうなると、コンピュータに求められるものも変わってきます。速いCPUや大きなストレージだけではなく、「自分のことをよく分かったうえで、自分のためにコンピュータを動かしてくれるAI」が欲しくなるはずです。
その入口に立っているように見えるのが、MicrosoftのSurface Laptop Ultraです。NVIDIAのBlackwell GPUと最大128GBのユニファイドメモリを備え、大きなAIを手元で動かすことを視野に入れたPCとされています。クラウドのAIに頼りきらず、手元のAIとクラウドのAIを組み合わせて使う形ですね。とはいえ、これはまだ「AIを載せたPC」の域にあるとも言えそうです。
一方、OpenAIは反対側から近づいています。Microsoftが「PCにAIを足す」のだとすれば、OpenAIは「AIを軸に、新しいデバイスを作る」ほうです。
Jony Iveとのハードウェア開発がその象徴で、最初の製品は画面を持たない小さなAIデバイスになるらしい、と報じられています。もしそうなら、新しいスマートスピーカーと呼ぶより、AIを中心に据えた別種のコンピュータと捉えるほうがしっくりくるのではないでしょうか。
ここで、少し歴史を振り返ってみます。
コンピュータの計算資源は、集中と分散を行ったり来たりしてきました。大型コンピュータの時代は、計算が中央に集まっていました。PC革命で、それが個人の手元に散らばりました。クラウドの時代には、再び巨大なデータセンターへ戻っていきます。そして今、ローカルAIとクラウドAIを併用するかたちで、もう一度「分散」が始まろうとしているように見えます。
ただ、今回の分散は、以前とは少し意味合いが違います。散らばっていくのは計算能力だけではなく、知能そのものです。知能が個人の側にやってくる。ここが、PC革命との大きな違いだと思います。
PCは、人間の計算する力を広げてくれました。PACは、人間の考える力と、コンピュータを操る力の両方を広げてくれるのかもしれません。
そう考えると、「AIキューブ」のような小さな箱型のデバイスが登場しても、あまり不思議ではない気がします。
大きな画面もキーボードもなく、机の上にちょこんと箱が置いてある。中にはCPUやGPU、メモリ、ストレージ、カメラ、マイク、通信機能がぎゅっと詰まっています。人間は画面をいじる代わりに、ただ話しかける。するとAIが情報を探し、アプリを動かし、ネットワークにつなぎ、手元のデータを処理してくれる。
もちろん、形は箱である必要すらありません。ノート型でも、スマートフォンでも、あるいは別の何かでも構わないはずです。大事なのは見た目ではなく、AIを中心に据えた、新しい個人向けのコンピューティング装置であるという点です。
そうなると、OpenAIの動きが気になってきます。MicrosoftにはWindowsという巨大なPCの土台があり、AppleにはiPhone、GoogleにはAndroidがあります。OpenAIはそのどれも持っていません。けれども代わりに、ChatGPTという、人とAIをつなぐ窓口を持っています。
それなら、「既存のコンピュータの中でAIを動かす」のではなく、「AIを中心に新しいコンピュータを作る」という方向へ進むのは、案外自然な流れなのかもしれません。
もしOpenAIの試みが広く受け入れられたなら、競争相手は、これまでのPCメーカーだけではなくなります。Apple、Microsoft、Googleが長年握ってきた「個人がコンピュータを使う入口」そのものが、問い直されることになるからです。
PCの次に来るのは、もっと速いPCではないのかもしれません。「コンピュータを持つ」時代から、「自分専用のAIを持つ」時代へ。PACは、その移り変わりを象徴する存在になっていくのではないでしょうか。*